発売:2020/01/11

【変人と呼ばれる海洋生物学者 × みんなのアイドル調理担当】
またこの人は僕をペンギン扱いしています。
主人公の温井 心(ぬくい しん)は、自分の調理場を求めて南極にやってきた。美味しいごはんでみんなを笑顔にしたい! そんな心の悩みの種は海洋生物学者の北畠(きたばたけ)さんだ。動物好きの彼は、人にも食事にも興味がないみたいで。どうすれば料理で彼の心をつかめるのか。
そんなある日、海に落ちた心をマリンスーツ姿の北畠さんが颯爽と救ってくれる。彼は心のことを「ペンギンに似ている」と言って溺愛し始めるのだが……。
え、ペンギンってオス同士でもつがいになるんですか!?
***
【肉体派フィールドアシスタント × 毒舌な隕石学者のたまご】
大嫌いなあいつと南極で隕石探しの旅に出る。
主人公の世良 遊馬(せら あすま)は、隕石を研究している大学院生。教授の助手としてはるばる南極まで隕石を探しにやってきた。
ところが教授が腰を痛めて隕石探査の旅に出られなくなり、フィールドアシスタントの鳳(おおとり)と行くことになってしまう。フィールドアシスタントはフィールドワークの際の道案内やサポートをするガイド的な役割だ。
遊馬は体力的にも押しの強さでも敵わない鳳に苦手意識を持つのだが、鳳の方も隕石のことしか頭にない遊馬に手を焼く。
そしてある日、ブリザードの中勝手に出ていって自らの命を危険に晒した遊馬を、鳳は勢い余って襲ってしまう。
そんな最悪の関係の2人が、夢の隕石探査の旅に出るのだが……。
***
以上、2本立てのBL小説です。
関連SS![]()
企画で書かせていただいた『隕石くんと火星人』のあとのお話です。1と2は繋がっていますが、3は別の機会に書いたものですので直接関係はありません。ですが時系列には並べてあります。
[1]ラブレター from 世良遊馬…500文字(→ページ内リンク)
[2]ラブレターのその後…………1,573文字(→ページ内リンク)
[3]男一匹、猫一匹………………1,346文字(→ページ内リンク)
『ラブレター from 世良遊馬』
鳳さん
あれからあんたが連絡してこねーから、わざわざ手紙を書くことにした。
これはラブレターじゃねーからな、勘違いするな。
請求書、督促状、公開質問状……多分そんな感じのやつだ!
まず言いたいこと!
連絡先交換しといて連絡してこねーってどういうことなんだよ!?
俺たちが南極から帰国して、もうひと月も経つじゃねーか。
あれから俺は研究室にこもって、分析やら何やらで忙しくしてたけど。
あんたから連絡がないって気づいて、無性に腹が立った。
いま現在進行形でムカついてる!
お前も連絡忘れてたじゃねーかとか、そんな反論は聞かねーからな!
鳳さん、俺のこと好きだとか言ったよな。忘れてねーからな。
その無責任発言に振り回されてる、こっちの身にもなってくれよ……。
なあ、今どうしてる? どこにいる?
あんたは山歩きが好きだから、エベレストとかヒマラヤとか、どっか危ないとこ行っちまいそうで不安なんだ。
だからとりあえず連絡してこい。
勝手に俺の手の届かないところへ行かないでくれ。
あんたのムカつく顔が見たい。声が聞きたい。
こういうの、なんて言うんだろうな。
好きだとか別にそういうんじゃねーけど……。
あんたのことを思ってる。
ただ、それだけだ。
『ラブレターのその後』
鳳さんに手紙を出して一週間。
あの頃満開だった桜は葉桜になってしまい、マンションの玄関に吹き込んだ花びらが寂しげに片隅に寄っていた。
俺はそれを見てため息をつく。
いや、ため息の原因は桜じゃない。ここにある郵便受けが空だってことだ。
薄々そんな気はしてたけど、あいつが手紙の返事を寄越さない。
こっちから出して三、四日は期待半分だったが、今は空の郵便受けを見て落ち込むのが分かってて、それでも見てしまう感じだ。
あいつ……、わざわざ手紙をしたためた俺の気持ちをなんだと思ってるのか。
空気読めねえほど馬鹿じゃないだろうし、絶対分かってて返事しねーんだ。
恋の駆け引きのつもりか?
思い上がるのもいいとこだ。こんな仕打ちは耐えられん、ヤるしかない。
重なり合う桜の花びらを見て思った。
薬でも盛るか、寝込みを襲うか。
しかし相手はあの鳳さんだ。返り討ちに遭う可能性が高い。
あいつ薬とか盛ってもピンピンしてそうだし。
どうすんだ? 分からん。とりあえず行くか? あいつの住所は分かってる。
こっちから会いに行くみたいなのはシャクだから、連絡せずにこっそり行こうかと考える。
ストーカーじゃねーからな!? 俺は殺害目的で行くだけだ。
心を決めたら、なんだか違う意味でドキドキしてきた。
目的はどうあれ、あいつの顔を見られるのかと思ったら……。
ああこれっ、会いたいとかじゃないからなー!? 純然たる殺意だ!
「待ってろよ、鳳大河……!」
郵便受けの前を通り過ぎ、鼻息も荒くマンションの廊下を進んでいた時だった。
「――ん?」
俺の部屋の前に誰かいる。
黒髪を後ろで束ねたガタイのいい、嫌味なほどの男前。
「うそだろ……なんであいつがいるんだよ……」
やつの横顔を見た途端、心臓が変な音を立て、息の仕方が分からなくなった。
手紙の返事も寄越さねえくせに、会いに来るとか殺す気か!
こっちにも心の準備ってモンがあるだろうが!
心不全でも起こさせる気か? 完全犯罪か!?
咄嗟に回れ右して逃げようとすると、追いかけてきたそいつに手首をつかまれた。
「どこ行く遊馬」
「家の前に不審者がいるっておまわりさんに――」
言い終わる前に腕を引き寄せられ、キスで唇を塞がれる。
……マジか、こんなのケーサツもお手上げだろ。
サスペンスの前にロマンスが始まるだろう、勘弁しろ。
それでも、なんだかすごくほっとした。
そしてキスしたあとにささやかれる。
「俺もお前のこと思ってる」
俺もって……、そうか手紙の返事か。
「くそっ、このキザ野郎!」
俺もこのフザケた男にキスを返す。
勢い余って前歯がぶつかった。
「つっ!」
痛かっただろうに鳳さんは、めちゃめちゃ楽しそうに笑っている。
「遊馬、元気そうだな? 会いたかった!」
「ウソつけ! 連絡も寄越さなかったくせに!」
「悪い、日本にいなかったんだ。ヒマラヤ登山で忙しくて」
「は? マジで登ってたのかよ!?」
なんつーか呆れた。
南極でも結構雪焼けしてたけど、今はさらに日焼けしてやがる。
「いや、登山計画を立てるために現地に行ってたんだ。ほら、これ土産!」
いきなりデカい岩塩か何かを渡された。
「うわっと! なんだよこれ……」
ずしりとくる重さに慌てる。
「遊馬の好きな隕石じゃないが、俺の気持ち」
「気持ちって……」
こんなモン貰ったって嬉しかないが。この重さは好きだと思った。
その時、強い風が吹いてきて、マンションの廊下に桜の花びらを運んでくる。
暗い夜空に巻き上がる花びらが、夜桜みたいできれいだった。
「桜の季節、逃したかと思ってたが」
鳳さんがつぶやいた。
「逃してねーだろ、来年も再来年もあるんだ」
玄関のカギを開けながら、俺は投げやりに言う。
けど分かるよな? 来年も再来年も、俺はあんたと桜を見たいと思ってる。
あんたはどうなんだよ? 俺の部屋に石増やす気あんのか?
その話は飲みながらでもしようかと考える、帰国から一カ月と一週間目の夜だった――。
<了>
『男一匹、猫一匹』
俺の拾った恋人が、どこからか猫を拾ってきてしまった。それで俺は今、だいぶ戸惑っている。
あいつが猫好きだってことは気づいてたんだ。落ち込んだ時は猫動画ばっか観てるから。けど生モノを拾ってくるとは想定外だった。
ペット不可な俺のマンションに、若い男が一人と猫一匹。計二匹を飼うことになってしまった。
「遊馬ー!」
仕事から帰り、玄関から名前を呼んでもあいつは来ない。がっかりしながらリビングまで行くと、部屋の隅にある段ボール箱の前に、しゃがみ込む背中があった。
やつは段ボールの中でひっくり返った猫の腹を、熱心になでている。
「遊馬、返事くらいしろよ」
「ここが気持ちいいんだな? お前はほんとかわいいなー」
聞いたこともない猫なで声。特にかわいくない俺は、すっかり無視されてしまっている。
とはいえ、こいつは出会った頃からこんな感じだった。働かないし、人の決めたルールは守らないうえ、文句ばかり言う。しかも驚くほど口が悪い。当然、俺の言うことなんか聞きやしない。
けど逆に、そんな野生児みたいなところが気に入って。俺はこいつを口説き落として家まで連れてきた。家賃、生活費こっち持ちという条件で。
大学院生で金のない遊馬は、その条件にまんまと乗ってきた。生活のためにバイトするより、俺に囲われた方が楽だと思ったんだろう。研究のことしか頭にないやつだ。そんなこいつらしい判断だと言えた。そして俺もこの野生児を手なずけていくことに、強い達成感を覚えていた。
で、一緒に住み始めて二カ月。同じベッドで寝てくれて、呼べば嫌そうな顔をしながらも来てくれるようになったんだ。
俺が山岳ガイドの仕事でしばらく家を空けたのがいけなかった。こいつは俺が山に登っているうちに猫を拾ってきて、そっちに夢中になってしまった。いうなれば猫は俺の恋敵だ。全く敵う気がしない。
考えた末、俺は出方を変えてみる。
「遊馬、俺にも猫見せてくれよ」
「いいけど……」
とりあえず会話は成立した。
「黒いのに目は青いんだな、いいじゃん」
「だろー? こいつ見つめ合ってる時に俺がまばたきすると、つられてまばたきするんだぜ」
遊馬が猫を抱き上げ、鼻先をくっつけるようにしてまばたきすると、猫も瞳をしばたかせた。
「ヤバいかわいい」
遊馬の頬ほおがすっかり緩んでいる。そんな笑顔初めて見た。やっぱ下心アリアリのおっさんじゃ、無垢な猫には敵わないのか。
そう思った瞬間、俺は遊馬を仰向けに押し倒していた。
「な、なんだよ……」
遊馬は猫を胸に抱いたままで、だからこそ暴れたりはしなかった。
「猫より俺を見ろよ」
眼鏡を外し、やつのまぶたにキスをする。キスの数だけこいつはまばたきした。猫に負けず劣らず無垢な瞳。
「あんた、猫に嫉妬してんのかよ」
顔を離して見ると、その瞳が笑っていた。
「あんたが俺を一人にするからいけなんだ。だから猫が必要になる」
寝たまま俺のシャツを引き寄せて、今度は遊馬の方からキスをしかけてくる。口の中で唾液が混じり合う。
猫は迷惑そうな顔をして、俺の横をすり抜けていった。
「俺に構ってほしければ、あんたがもっと俺に構えよ」
これだから、この猫みたいな男が手放せない。
ペット可のマンションに引っ越さなきゃなと思いながら、俺は恋人の服を脱がしにかかった――。
<了>

